第2回:Markdownとローカルファースト——知識を自分の手元に残す

Markdownとは何か、ローカルファーストとはどのような考え方か。Obsidianが知識を自分の手元に残しやすい理由を初心者向けに説明します。

前回は、情報があふれる時代に、なぜ「自分だけの知識ベース」が必要なのかを考えました。

情報を保存するだけでは、知識にはなりません。 大切なのは、自分の言葉で書き直し、過去の学びや経験とつなげ、あとで使える形に育てていくことです。

これは、パーソナル・ナレッジ・マネジメント(Personal Knowledge Management, PKM)の基本でもあります。

今回から、そのための具体的な道具として、Obsidianを見ていきます。

第2回で取り上げるのは、次の二つです。

  1. Markdownとは何か
  2. ローカルファーストとは何か

どちらも聞き慣れない言葉かもしれません。しかし、Obsidianがなぜ長く使う知識ベースに向いているのかを理解するうえで、大切な考え方です。

Markdownとは何か

Obsidianでは、Markdownという形式でノートを書きます。

Markdownは、普通の文章に少しだけ記号を加えることで、見出しや箇条書き、リンクなどを表現する書き方です。

たとえば、次のように書きます。

# 今日の学び

## 気になったこと

- ObsidianはMarkdownファイルを使う
- ノート同士をリンクできる
- 自分だけの知識ベースを作れる

## 次に調べたいこと

[[PKMとは何か]]
[[グラフビュー]]

この例では、行の先頭にある記号が、文章の書式を示しています。

  • #は、そのノートの大きな見出しを表します
  • ##は、その下に置く小さな見出しを表します
  • -は、項目を箇条書きとして表示します

つまりMarkdownでは、文字の大きさや箇条書きを画面上で直接指定する代わりに、簡単な記号を使って文章の構造を伝えます。Obsidianはその記号を読み取り、見出しや箇条書きとして表示します。

難しい装飾を覚える必要はありません。 最初は、見出し、箇条書き、リンクだけ使えれば十分です。

Markdownのよいところは、見た目の飾りよりも、内容に集中しやすいことです。 Wordのように文字の大きさや色を細かく変えるよりも、まずは「何を考えたのか」「何を学んだのか」を書くことに向いています。

Obsidianでは、Markdownで書いた文章を、見出しや箇条書きとして読みやすく表示できます。

Markdownファイルの実体は、ただのテキストファイル

Markdownで書いた文章は、拡張子が.mdのファイルとして保存されます。

たとえば、Obsidianで「読書メモ」というノートを作ると、実際には次のようなファイルが作られます。

読書メモ.md

これは、特別なアプリでしか開けないファイルではありません。Windowsのメモ帳でも開けます。Macのテキストエディタでも読めます。Visual Studio Code(VS Code)のようなコードエディタでも扱えます。

つまり、Obsidianのノートの正体は、シンプルなテキストファイルです。

メモ帳で開けば、#-を含む普通の文字として読めます。ObsidianやほかのMarkdown対応アプリで開くと、#は見出し、-は箇条書きとして表示されます。

ここがMarkdownの面白いところです。

Wordのように、文字の大きさや色、レイアウト情報をアプリの独自形式に強く依存させるのではなく、文章そのものは単純なテキストとして残ります。そのうえで、必要最小限の記号によって構造を表現します。

Markdownは長く残しやすい

文章の中身が普通のテキストとして残ることは、長く使う知識ベースにとって大切です。

ノートアプリは、これからも変化していきます。 新しいアプリが出るかもしれません。 今使っているサービスの方針が変わるかもしれません。 AIとの連携方法も、数年後には大きく変わっているかもしれません。

そのときに、自分のノートが普通のテキストファイルとして残っていれば、別の道具に移しやすくなります。

つまり、Markdownは「今だけ便利な形式」ではなく、将来の自分にも渡しやすい知識の形だと言えます。

AI時代には、この点がさらに重要になります。

Markdownでは、見出し、箇条書き、引用、コードなどの構造が、単純な記号によって文章中に明示されます。そのため、生成AIにノートを渡したときにも、どこが見出しで、どの項目が同じまとまりに属するのかを捉えやすくなります。

AIサービスとの会話は便利ですが、そのままでは会話の中に埋もれがちです。大切な気づき、自分なりの判断、学びのまとめをMarkdownとして残しておけば、AIを使いながらも、自分のノウハウを手元に蓄積し、必要なノートをAIへ渡しやすくなります。

アプリより、ファイルを大切にする

Obsidian CEOのSteph Angoは、この考えを「File over app」と表現しています。

日本語にすれば、「アプリよりファイルを大切にする」という意味です。

ソフトウェアは、永遠には続きません。サービスの方針が変わることもあれば、料金、機能、対応環境が変わることもあります。開発が終了する可能性もあります。

一方、自分で管理できる単純な形式のファイルなら、別の道具へ移りやすくなります。Obsidianを使い続ける場合でも、将来ほかのアプリを選ぶ場合でも、中心に残るのは自分のノートです。

Angoは、2025年8月18日にThe Vergeが公開したインタビューでも、Markdownのような単純で耐久性のある形式を使い、利用者が自分のデータを管理できることを、Obsidianの哲学の一つとして説明しています。

Obsidian自身も、いつか使われなくなる可能性があります。それでも、自分で管理できるMarkdownファイルが残っていれば、別のアプリで読み、使い続けられます。

File over appは、Obsidianだけを使い続けようという主張ではありません。むしろ、どのアプリにも寿命があるからこそ、自分の文章をアプリの外でも読める形で持っておこう、という考え方です。

ローカルファーストとは何か

Obsidianでは、自分で選んだパソコン上のフォルダに、Markdownファイルや画像、PDFなどを保存します。このフォルダを、ObsidianではVault(保管庫)と呼びます。

Obsidianで扱えるのは、文章だけではありません。画像やPDFなどもファイルとしてVaultに保存し、ノートの中に表示できます。ノート本文はMarkdownファイルのまま、画像などの添付ファイルを参照する仕組みです。詳しい操作は、後の回で扱います。

「ローカルファースト」とは、まずローカルにあるデータを基本とし、必要に応じて同期やバックアップを組み合わせる考え方です。

多くのクラウドサービスでは、サービスへログインして、運営会社のサーバーにあるデータを利用します。Obsidianでは、まず自分の端末にあるファイルをアプリが読み書きします。

Obsidianでは、保存方法を自分で選べます。

  • 一台の端末だけで使う
  • 外付けドライブへバックアップする
  • 自分で選んだクラウドストレージで同期する
  • Obsidian Syncを使って端末間で同期する

方法ごとに使いやすさや注意点は異なります。このシリーズでは、最初から複雑な同期を設定せず、まず一台の端末でVaultの仕組みを理解します。

※Obsidian Syncは、Obsidianが公式に提供している有料の同期サービスです。利用にはサブスクリプション契約が必要で、料金やプランは変更される可能性があるため、最新情報は公式のObsidian Syncページで確認してください。

ローカル保存なら、何でも安全とは限らない

ノートが端末に保存されることと、何もしなくても安全になることは同じではありません。

パソコンの故障に備えるには、バックアップが必要です。外部の同期サービス、コミュニティプラグイン、生成AIなどにアクセスを許可すれば、データが端末の外へ送られる場合もあります。

ローカルファーストの利点は、すべてが自動的に守られることではありません。保存、同期、バックアップ、外部サービスとの接続を、自分で選びやすいことにあります。

バックアップやAI連携の注意点は、後の回で詳しく扱います。

第2回のまとめ

今回は、Markdownとローカルファーストという二つの考え方を見てきました。

Markdownは、簡単な記号で文章の構造を表しながら、中身を普通のテキストとして残せる形式です。特別なアプリがなくても読めるため、別の道具へ移りやすく、将来の自分にも渡しやすいという利点があります。

ローカルファーストは、自分の端末にあるファイルを基本にして、必要に応じて同期やバックアップを組み合わせる考え方です。どこに保存し、どのサービスと接続するかを自分で選びやすくなります。

Markdownで書き、ローカルに保存する。この二つが、知識を特定のアプリだけに閉じ込めず、自分の手元に残すための土台になります。

次回は、Obsidianの大きな特徴であるリンクを取り上げます。まずは詳しい操作へ進む前に、ノート同士をつなぐと何が起きるのかを見ていきます。

参考リンク